向井康二のすゝめ ~彼を高みにつれてって~




向井康二さんに、
演技のお仕事をください。






滝沢歌舞伎ZEROを観た。
向井さんの官兵衛を観た。
一言でいえば、「衝撃」だった。


滝沢歌舞伎ZEROを観ることをとても楽しみにしていた。けれど、わたしが楽しみにしていたのは、滝沢歌舞伎という舞台作品そのものというよりは、その裏にあるストーリーや、9人の覚悟を感じることだった。滝沢さんから引き継いだ舞台。初めて9人揃って立つ新橋演舞場。それがどのようなものだったのかを知りたかった。実際に観てみたらやはり、わたしが知りたかった9人の覚悟、座長という重責を負う彼らが映し出されていたし、初期メンバーの6人がみんなを鼓舞し、経験の浅い(もしくは無い)3人が必死で食らいつている姿に心も打たれた。陳腐な言葉で迂闊に感想を述べられないくらいの緊張があって、それらは全く期待を裏切らない内容だった。


しかしひとつだけ
想定外だったことがあった。


向井さんの演技だ。


本当に失礼な話だけれど、滝沢歌舞伎を観る前のわたしは「あの舌ったらずなこーじくんが、舞台で台詞を?」と、思っていた。彼が努力家なことは分かっているけれど、滑舌や演技力は努力だけでは限界があると思えたし、わたしが知る限りの彼は決して器用な人ではなかったからだ。


だから2幕が始まって、官兵衛が登場したときには心底驚いた。


そこには、唸り、憎み、高笑いして目を見開く、狂気に満ちた彼がいた。


これが、向井康二
あの可愛い、向井康二


メイクは良く似合っていたけれど、見た目は遠目にもはっきりと向井さんだと分かった。どうしたって向井さんなのに、ここにいるこの人は、誰?

「江戸を血の海にしてやれえ!!!!!!」


気迫に息をのんだ。
空気が、震えていた。


薄気味悪さが、
ねっとりとした厭らしい気配が、
彼に纏わりついていた。


そして滑舌も良かった(なんで?)。


「こうしたら悪役っぽいかな」と、頭で考えてできるレベルは超えているように思えた。「頑張っている」ように見えてしまうこともなく、もう当たり前のように官兵衛で、そこにわたしの知る向井さんはいなかった。


そしてそんなわたしが滝沢歌舞伎の衝撃を消化しきれないまま、次に観たのが「白い巨塔」だった。


豪華キャストで、実力派俳優に囲まれた作品だから、決して彼の演技が飛び抜けていたわけではなかった。それでも、見ている人がちゃんと彼の味方をしたくなったし、もっともっと経験を積めばさらに光るのではと、今後を期待するに足る演技だったと思う。しかも、岡田准一さん、松山ケンイチさん、斎藤工さん、柳葉敏郎さん、岸部一徳さんに、岸本加世子さん。これだけたくさんの実力派俳優の演技を目の当たりにできたことが、彼にとってはきっとものすごいプラスな経験のはずだった。


第3夜から出演した向井さんは、滝沢歌舞伎からは一転して今度は優しい一人息子を演じていた。舞台とはやはり勝手が違うのか、時折ぎこちなさは垣間見えるものの、感情が入るシーンと、表情がとても良かったように思う。


お父さんが死んだあとの泣き方、涙の拭い方、霊柩車を見送る表情。

人柄の良さと悔しさが入り交じった「黙ってないでなんか言うてや!!」という叫び、「父がこんな死に方をしたのが、どうしても悔しい…。僕は、この問題を徹底的に追求します。」と言ったときの声の震えと、芯の強さが今も耳に残る。赤らんだ目と、そのまなざしの強さが、忘れられない。彼のもつ優しさが、人の気持ちに対する想像力につながって、演技に生きているのだと思った。とても、とても嬉しかった。



実は、向井さんを好きになった頃、Twitterに「こーじくんにSHOCKのライバル役をやらせてください」と投稿しかけてやめたことがある。たかがTwitterの投稿かもしれない。それでも、単に好きという理由だけでは彼を推せないくらいにはSHOCKという舞台に思い入れがあったし、可愛くて、甘えん坊で、何より優しさが滲み出ている向井さんがライバル役に適任だとは思えなかった。それに、そもそも向井さんが演技のお仕事をしたいのかどうかも分からなかった。


でも、滝沢歌舞伎白い巨塔を見て、印象が全く変わってしまった。


SHOCKのライバル役は、全キャストの中で一番感情の振り幅が広い。仲間に見せる無邪気さ、上り詰めてやるという野心、ライバルへの闘志と嫉妬、切ない恋心、絶望、後悔…それらすべてを向井さんなら表現できるのではと思えた。彼の優しさ故の想像力をもってすれば、いいライバル役になるのでは、と。最近の連載誌で、彼が演技のお仕事に興味を持っているということも知り、期待は高まるばかり。


今は新型コロナウイルスの影響で、舞台公演やドラマ撮影が思うようにはできない世の中だけれど、もしもまた、これまでのSHOCKのストーリーが戻ってくる日がきたのなら、そのときは光一さん…


向井康二さんをライバル役に起用しませんか。


個人的には、ユウマに匹敵するいいライバル役になるのではと期待しています。


ということで、各方面の皆さん、向井さんに演技のお仕事をください。これからの彼に、沢山の経験をください。舞台でもドラマでも映画でも、なんでもください(本当は彼の悪役が好きですが、優しすぎて悪役ばかりだと彼の心がめげそうなので、普通の役もまぜてください。)。

彼を高みへ連れて行ってください。どうかどうか、彼が沢山の方の目にとまりますように。




(最後に)
これでも十分に彼のポテンシャルが伝わると思えてきた。